【加筆・修正中】恋した君に愛を乞う
「私が秘書になったら、社長と行動を一緒にするから、何か企んでいても阻止できる、ということですか?」

「うん、そういうことだね」

「でも私、本当に何も企んでませんし、私を秘書として置かれること自体がデメリットになるかもしれませんよ?」

「デメリット?それはないな。だってこんなに可愛い子がずーっと一緒にいてくれるんだよ?これで疑いが晴れるなら俺にとっては一石二鳥じゃないか」

疑いをかけている相手に向かって言う台詞ではないようなことを至極楽しげに話す社長は、本当に私のことを疑っているのか、それこそが疑わしい気がする。
こんな小娘が何か企んでいたとしても、この大企業の基盤が揺らぐとは考えにくい。
だとしたら、私はただからかわれているだけ、と考える方がしっくりくる。

「秘書になったら、君は俺が行くところにはついて来なくちゃならない。四六時中ずーっと一緒、夜寝るときも一緒ってことだね」

「えっ」

「社長の嘘ですよ。ご安心を」

「あ、ああ、そうですよね」

「藤堂、余計なこと言うな。もしかしたら夜も一緒にいてくれるかもしれ……」

「ありません」

「だからもしかしたらって言って……」

「ありません」


そう言って冷めた目で社長を見下ろす藤堂さん。
まるで悪さをした子供を怒る親と子のように見えてしまい堪えなきゃ、と思うのに笑いが込み上げてくる。

「ホントお前はいつもそうやってさ」

「……ふふっ」

やり取りがあまりに幼稚で可笑しくて、ついに吹き出してしまった。
たぶん、いや、絶対にこの人たちは私のことを本気で疑っている訳じゃないと思う。ただ、念のためそうせざるを得ないのかもしれない。
だけど私が気を悪くしないように気遣ってくれている、二人のやり取りを見て私にはそうとしか思えなかった。

「はは、よかった、笑ってくれて。君、この部屋に入った時からずっと不安そうな顔をしてたから。俺、女の子をいじめて楽しむ趣味はないからさ。胸が痛くて」

「……いじめて楽しむ趣味はなくても、からかうのはお好きなように見えますけど……」

「からかう趣味もないつもりなんだけどな。ね、藤堂」

「それはどうでしょう。私は佐伯様のご意見に賛同致します」

「えっ!何で俺だけ悪者になるの」

「普段の行いかと」

「だから誤解されるようなこと言うなって。本当にお前は……」

後ろに控える藤堂さんに一言二言文句を言いながら、ソファから立ち上がると、社長は私のすぐ隣にやって来た。
そしてスッと手を差し出されたので、私も慌てて立ち上がる。

「じゃあ、これから宜しくね。佐伯美緒さん。俺の、秘書として。そしてーーーー婚約者として」

「え……?」

握手を求めて差し出された手を取ろうとした時に聞こえた台詞に耳を疑い社長を見上げると、彼は満面の笑みを浮かべながら、すっかり固まっていた私の手をぎゅっと握った。

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