【加筆・修正中】恋した君に愛を乞う

決して豪華ではないけれど、広々とした質素な一軒家。
実の母は物心ついた時にはいなかったけれど、父は再婚してからも私を連れて母方の祖母をよく訪ねていたこともあり、祖母にはとても可愛がってもらった。
父も祖母のことを気にかけていて、この家を祖母が住みやすいように改築してくれていた。


「少し不躾かもしれないけど、君は佐伯の家には全然帰っていないの?」

「はい。父が亡くなってから佐伯の家に私の居場所はありませんでした。父からの遺言はあったのですが、義理の母とその弟に対してだけでした。私は会社の経営には興味がありませんでしたので、父が気を遣ってくれたのかもしれません。もともと譲り受けていた財産はあったし、家に頼る気もなかったので1周忌を終えた後、家を出ました。きっとその方が上手く回ると思って」

「そうか……。何か意外。お嬢様ってさ、もっと何もできなくて、お金がなきゃ生きていけなくてさ。一人じゃなんにも出来ないイメージだったけど。美緒は一人で何でもやるみたいだね。君も、色々苦労してるのかな……」

「……も、ってどういう意味です?」

「ん、いや、何でもないよ。……さあ、用意ができたらもう行くよ」

「あ……、はい」


返事をした私の目に映るのは、誰もが振り返るに違いないほど華やかな雰囲気を纏った期間限定の婚約者。
どんな思惑があるのか底知れないけれど、彼の掌の上に乗せられたであろう今では、これからどうなるのか、自分が行き着く先を知りたいと思うようになっていた。
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