【加筆・修正中】恋した君に愛を乞う
***


藤堂さんが帰ってしまったので、とうとう社長と二人きりになってしまった。
ここに来たときは少し緊張していたけれど、今は自分でも意外なほど落ち着いていた。
使っていいよと言われたお部屋は必要なものは取り揃えてあったし、きちんと鍵もついていた。
そもそも家の中が広いので、一緒に住んでいるというよりも家の中で別居してるみたいな、そんなふうに思えて気が楽になった。


「バスルームもキッチンも君の好きなように使っていいよ。俺は家でも仕事してることが多いけど、気にせず何かあれば声かけてくれていいから」

「わかりました」

「じゃあ俺、まだ残ってる仕事があるから。よかったら家の中見て回ってていいし、バスルームも先に使っていいよ」


私にそう告げると、社長は自室に籠ってしまった。
家でも仕事だなんて、安らぐ時間はあるのかとふと思う。そんな中で私と同居するというのは、本当は私よりも社長の方が精神的にきついのでは。


「……せめて迷惑かけないようにしなくちゃ……」


私と婚約して同居することを決めたのは社長なんだから、その負担を私が気にする必要はないかもしれないけど。
もしかすると嫌だけど一緒に住むしかないからこうした、ということなら私だけが被害者じゃないだろうし。

どれぐらいの間ここにいるのかは全くわからないけれど、せめてここにいる間は社長と上手くやっていきたい。

激動の一日の終わりに私は、自分の境遇を嘆くより明日からの抱負を思い描いていた。
< 38 / 117 >

この作品をシェア

pagetop