【加筆・修正中】恋した君に愛を乞う
ただただ黙って藤堂さんの背中を見つめながら歩を進め、上層階専用エレベーターに乗り、足元が寒くなりそうな高さへ上り詰めたところで扉が開く。


「さあどうぞ。手前が秘書室、その奥が社長室です」


そう言って何気なく行く先を案内する指先は綺麗に揃っていて、彼の所作のすべてが無駄なくそつなく、誰からも嫌悪のひと欠片さえも向けられないよう配慮されているのがわかる。

エレベーターを降りてすぐに広がるフロアには受付と思われる広いカウンターがある他は、白い皮張りのソファーと木目調の天板が施されたテーブルの応接セットがいくつか置かれ、間接照明が与える柔和な雰囲気は少なからず張りつめていた心を和ませる。

受付にいる秘書と思われる女性は見るからに品がよく、美しく纏め上げられた髪や磨き上げられたヒールの靴からはこのフロアの清潔感をそのまま表現しているかのように思えた。

そしてまるで自分の庭でも案内するかのように前を行く藤堂さんに会釈をし、私へも目を向けるけれどそこには会釈の欠片もない。
明らかに分不相応な人間がやって来たとでも言いたげな視線は私を値踏みするかのように上から下まで這わされていく。見た目からは想像できないあまりの豹変ぶりに驚きを隠せず戸惑ってしまう。


「佐伯さん、少々お待ちいただけますか?」

「あ……、はい……」


いかにも社長室の扉といった佇まいの大きな扉を前にして藤堂さんが私に声をかける。
てっきり秘書室に向かうのだと思っていたけれどそうではないらしい。まずはボス、つまりは社長と顔合わせといったところだろうか。

今の社長は先月就任されたばかりで、名前も顔も社内のHPでちらっと見るだけで、本物に会ったという話はほとんど耳にしたことはない。
なんでも彼は会長のご子息で、若いながらも優秀で早いうちから頭角を表していたとかなんとか。

そういえば社長も容姿端麗と言われていたような。
もしそうなら藤堂さんといい社長といい、顔面偏差値の高い人達に囲まれると無駄に目が肥えてしまいそうだ。

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