初恋のうたを、キミにあげる。
***
他愛のない会話をしながら、夜道をふたりで歩いていく。
森井くんとの会話は楽しくて、ドキドキして、どこか安心する。
「ここ?」
「うん」
家の前に着いたところで、立ち止まる。
玄関あたりの街灯はついていて、その下に人がいるのが見えた。
「星夏?」
お母さんがちょうどドアを開けようとしていたところだった。
手にはタッパーを持っているので、きっとリュウくんか舞花ちゃんのお母さんになにかおすそ分けをもらったみたいだ。
お母さんは私の隣にいる森井くんを見て、わずかに眉をひそめる。
「っあの」
「遅くなるならちゃんと連絡しなさいって言っているでしょう」
連絡はした。けど、きっとお母さんが舞花ちゃん家かリュウくんの家に行っていたから見ていないタイミングのときに送ってしまったんだと思う。
どう言えばいいのか、うまく言葉が出てこなくて、喉のあたりがぎゅっと苦しくなる。
「すみません。もっと遅くなる前に家に帰すべきでした」
「……貴方は?」
「同じクラスの森井といいます」
いつもの気怠そうな森井くんではなくて、しっかりとしている口調で少し驚いてしまった。