初恋のうたを、キミにあげる。
「俺の気が回らなかったのが悪いので、小宮さんのこと責めないであげてください」
違う。私が森井くんに迷惑かけたのに。森井くんはなにも悪くないのに。
鼻がつんとして、目が潤む。
どうして私は自分の気持ちを言えないんだろう。
うまく話せなくても伝えようとすることが大事だとわかっているのに、お母さんの顔を見ると萎縮してしまう。
「それと、小宮さんの話を聞いてあげてください」
森井くんの手が私の背中を軽く叩く。
購買へ行くときみたいに、足が一歩を踏み出した。
その瞬間、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。
「人よりも話すのが苦手で、遅いかもしれないけど、きちんと自分の意思持ってます。言葉に詰まっていたら、待ってあげてください。本当はお母さんに聞いてほしいんだと思うんで」
それだけ言って、森井くんは頭を下げて帰っていく。
慌てて振り返って、森井くんが遠くならないうちに「ありがとう!」と叫ぶ。
歌うとき以外にこんなに大きな声を出すのは久しぶりだった。
すると、森井くんは振り返らずに手だけあげて振ってくれた。