初恋のうたを、キミにあげる。
先輩の長い爪が私の手に食い込んできたけれど、そんな痛みを気にしていられない。
必死に止めて「やめてください」と叫ぶ。
お願い。お願いだから、木崎さんを傷つけないで。
私はなにがあったのかなんて全く知らない。この人たちにとってはただの部外者。
それでも、このまま見ているだけなんていやだ。止めなくちゃ。
「てめぇ、邪魔なんだよ!」
「い、やです」
「離せよ! 邪魔!」
周りにいた女の先輩に今度は私が掴まれて、床に突き飛ばされた。
足を打ちつけた痛みに下唇を噛み締める。
「っ小宮ちゃん!」
私ひとりではこの人たちを止められない。
どうしたらいい?
走って職員室まで行って、先生を呼ぶべきだろうか。
けれど、木崎さんを置いていくことなんてできない。いっそのこと、ふたりで走って逃げてしまったほうがいいかもしれない。
「やめてください! 彼女は関係ないです!」
木崎さんの叫ぶような声に顔を上げると、目の前にチョコレート色がふわりと揺れた。
その瞬間、じわりと目に涙が滲む。
「小宮さん」
私を呼ぶ落ち着く声に強張っていた身体の力が抜けていった。