初恋のうたを、キミにあげる。



それは明らかにいいものではない。

違うのに。三人はなにも悪いことしていないのに。


「いいの。実際さ、先輩の彼氏だって知らなかったとはいえ、仲良くなっちゃった私も悪いしね。けど、奪ってはないんだけどなぁ」


そう言って木崎さんは苦しそうに笑った。


大城くんの話によると、木崎さんに近づいてきたのは先輩の彼氏の方で、彼女がいることを隠していていないと言っていたらしい。


そして、ふたりが親しいことが彼女に知れて、破局。

彼女の周りの人たちが、それから木崎さんを目の敵にするようになったそうだ。



木崎さんが悪いわけじゃない。

彼女がいることを隠して近づいてきた先輩が悪いはずなのに、こんな風に傷つけられなくちゃいけないなんておかしい。



どうしようもなくもどかしくて、周りの人たちに伝わらないのが歯がゆい。



彼らを見る目が冷たくて、違うよって言いたい。

けれど、言葉にするだけが正しいわけじゃないのはわかってる。



騒げばよけいに彼らの状況を悪くしてしまう。


歯がゆさを抱えたまま、その日は耐えるしかなかった。






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