初恋のうたを、キミにあげる。


***



翌日の土曜日は朝から雨だった。

携帯電話を朝一で確認したけれど、森井くんからの返信はきていない。



……どう思ったかな。


森井くんはナツに会いたくないと言っていた。

彼の中でのナツのイメージがあって、ナツが小宮星夏だと知ってしまったことによってイメージが崩れてしまったと思う。


それでも打ち明けたのは私の勝手な自己満足で、黙っていることが嫌だった。

森井くんの想いに応えて向き合うのなら、秘密はなくしてしまいたい。


それでダメになってしまう可能性があることはわかっていたけれど、心にもやもやを抱えたままではいられなかったんだ。




お母さんもお父さんも出かけてしまったので、次に歌う曲でも探そうかなと思っていると携帯電話が鳴った。


差出人は森井くん。

どきりと心臓が跳ねて、メッセージを確認したいと思う気持ちと見たくないという気持ちが複雑に混ざり合う。

薄眼を開けて、メッセージの中身を確認する。



『今家にいる?』

想像とは違う言葉にほっとしたのもつかの間、疑問が浮かび上がる。


『います』

『じゃあ、今から行く』

突然のことに驚いて勢いよく立ち上がった。

今から森井くんが来る!?



「ど、どうしよう」


慌てて着替えて、鏡の前で髪の毛を整える。

こんなときに限って、前髪が跳ねているので必死に直した。



好きな人の前では少しでも良い自分でありたいと思うけれど、緊張する理由はそれだけじゃない。


きっと森井くんは昨晩の件を話しに来る。


なんて言われるのかわからなくて怖い。


だけど、今更引き返すことはできないし、自分でしたくてしたことだ。







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