初恋のうたを、キミにあげる。




森井くんは携帯電話をいじりながら声をかけてきた。

勝手に委員に決められたという彼は全く乗り気ではないのだろう。早く決めて帰りたいのかもしれない。


「ぁ、」

どうしようなにか言わなきゃ。でも、話して不快に思われたらどうしよう。


『気持ち悪い声』

中学生の頃、クラスの男子に言われた言葉が未だに心を抉ってくる。

中学では滅多に話さなかったけれど、どうしても質問しなくちゃいけないことがあって話したとき教室の一部で笑いが起こった。


『まともにしゃべらねーし、しゃべったと思ったらすっげー声。それ作ってんの? それとも地声?』

違う。これはただの記憶で、過去で、目の前の彼が言ったんじゃない。

それなのに言葉が喉を通らない。空気だけが空しく抜けていく。



「俺的にはこういう曲好きなんだけど、小宮さんはどう?」

森井くんは携帯電話の画面を私に向けてきた。そこには今流行りの女性ボーカルが映っている。


どうでもよさそうにしていたわけではなくて、携帯電話で検索してどんなものがいいか探していたんだ。




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