初恋のうたを、キミにあげる。
声を作ってなんていない。ぶりっこもしていない。
けれど、それを主張したところで聞く耳をもたれなかった。
瞬く間に私は居場所を失い、ぶりっこだと指をさされ、話せば笑われる。
おかしなことなんてなにも言っていないのに、聞こえてくる笑い声が私の心を責め立てた。
それから私は人前で話すことが怖くなり、萎縮するようになってしまったのだ。
当時別のクラスだった幼なじみのふたりは気にすることはないと言ってくれた。
わかっている人だっている。気にする方が損だと励ましてくれた。
それでも私にとっては心の傷になり、中学の頃は必要以上に人と話さなくなった。
また笑われるのではないか、影でなにか言われるんじゃないかと思うと怖くてたまらなかった。
けれど、歌だけは好きでよく部屋で歌っていた。
その時間だけが私にとっての自由だった。
そんな私は中学三年生のあるとき、動画や音声を配信できるサイト〝キューブ〟————通称・音箱(おとはこ)に出会った。
のびのびと歌っている歌い手と呼ばれる人たちに憧れて、自分もこんな風になりたいと思った。
顔や本名を晒す必要がないので正体がバレる心配がない。
勇気を出して試しに歌を投稿してみると、想像以上に反応してくれる人がいたのだ。
学校の人たちとは違って私を馬鹿にしない。
笑わないでいてくれる。褒めてくれる。歌を聞きたいと言ってくれる。
そんな人たちがいるこの空間は唯一私が自分らしくいられるのだ。
だから私は小宮星夏ではない、歌い手の〝ナツ〟を作った。