初恋のうたを、キミにあげる。
ほんの少しの会話だけど、森井くんと話をしたことによって先ほどまでの緊張は不思議なことにすっかり消えている。
自分の席へ行き、友達と話している様子の森井くんの後ろ姿を眺める。
またありがとうって言いたいことが増えた。
いつも俯いてばかりだった。
できるだけ息を潜めて、存在感を消して、ひっそりと過ごす。それが楽だった。
だけど、今日は顔を上げて教室を見渡してみる。
視線も笑い声は、私に向けられてなんていなくて誰も私のことなんて見ていない。
広く思えていた教室は案外狭く感じる。
窓から吹き込む風は少しだけ雨の匂いを纏っていて湿気ていた。きっと夜中に雨が降っていたからだ。
ここの席からは校庭以外にも体育館も見える。
剥き出しの渡り廊下を楽しげに会話をしながら通っている体育着姿の女子生徒の姿。
俯いていたから今更いろいろなことに気づく。