初恋のうたを、キミにあげる。



薬局で見たことある。けれど、そこのコーナーにいると自分が浮いている気がして恥ずかしくて、前を通過したことしかなかった。


「染めたいの?」

「ちょっとだけ……やってみたくて」


似合わないって言われちゃうかな。

私みたいに地味で目立たない女子がおしゃれで髪を染めてみたいだなんて。


「ふーん。いいんじゃん」

「え……でも、似合わなくないかな」

「そんなんやってみねーとわかんないし。似合わなかったら変えればいいじゃん」

目を見開き、力なくだらりと腕を下ろす。

森井くんの言葉は私にとって魔法みたいだ。



「なんでそんな驚いてんだよ」


黒が似合う。色を変えないほうがいい。


舞花ちゃんにも、リュウくんにも、お母さんにも言われた。


だから、似合わなかったら変えればいいなんて言ってもらえたのは初めてだった。


重たくのしかかったものが、なくなっていく。





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