初恋のうたを、キミにあげる。



「あ、うん。夕飯の残りとかを詰めることが多いんだけど……」

お母さんは仕事が忙しいから自分でお弁当を作るようにしている。

とはいっても凝っているものではなくて簡単なやつだけど。ほとんど残り物で、卵焼きとかちょっとしたものを作るくらいだ。


「森井くんはまたパンなんだね」

「あー、楽だし。最近は購買のやきそばパンが気に入ってる」


購買に行ったことがないので想像がつかないけれど、美味しいのかな。入学してから一年以上経っているのに私は校内で行ったことない場所が多い。

私は今まで自分の行動範囲を狭めて、これでいいって現状に隠れていた。


視野を広げて、会話をしたら改めて知ることってたくさんある。



「購買のやきそばパン、美味しいの?」

「うまいよ。食う?」

「えっ! いいよ。購買って行ったことないから……少し気になっただけ」

「ふーん」


行ってみたい気持ちもあるけれど、行ったことのない場所へ行くのは不安だった。

視野が広がって嬉しいはずなのに、こうやってまた足踏みをしてしまう。





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