初恋のうたを、キミにあげる。
「てか、どっちかっていうと慎だろ。困らせてんの」
「は?」
「小宮さん、顔真っ赤だし」
振り向いた森井くんと目が合い、咄嗟に俯きそうになるのをぐっと堪える。
顔赤いって本当かな。頬が熱い気がするけど、自分じゃ赤いかどうかなんてわからない。
「……ごめん」
「う、ううん」
離れていく森井くんの手に寂しさを感じながらも、解放された手を胸元に押しあてる。
……緊張した。
森井くんにとっては大したことじゃなかったのかもしれないけれど、私にとってはハードルが高すぎる。
「なんか、こう……むず痒いな」
「わかる! 私もむず痒い!」
苦笑している大城くんと、なぜか両手で顔を覆っている木崎さん。
理由が知りたくて聞こうか迷っている私を察したのか、森井くんは「聞かなくていいから」と少し苛立ったような不機嫌な面持ちで言った。
「それより、欲しいものあった?」
「あ、うん。飲み物、買ってくるね」
透明な冷蔵庫の中で冷やされていたオレンジジュースのペットボトルを持って、白いエプロンをつけた購買のおばちゃんのところでお金を払う。
初めて購買で買い物できたことが嬉しくて、オレンジジュースを握りしめながら頬を緩める。
誰かにとってはちっぽけなことかもしれないけれど、私にとってはとても大事な一歩だった。