初恋のうたを、キミにあげる。



「どうぞ」

あまり考えずにきてしまったけれど、リュウくん以外の男の子の家って初めて入る。それにふたりっきりなんだよね。

粗相のないように靴をきちんと揃えてから森井くんの後に続く。

きちんと整理整頓されている綺麗なリビングには、大きな窓ガラス。そこから見える絶景に開いた口が塞がらない。


「……すごい景色だね」

「あー、まあこの階だとな」

街が小さく見える。まるでテレビで見た高級ホテルみたい。


「俺の親、仕事で忙しくて放任なんだ」

「そうなんだ」

「けど、まあもう慣れたし、寂しいとかはないけどさ。あんまり人が家に上がることがないから、新鮮だな」

木崎さんたちもあまりくることはないのだろうか。

森井くんの家の事情のことはよく知らないから、あまり突っ込んだことを言ってはいけない気がして言葉を噤む。



「あった」

森井くんは黒染めの箱とタオルを持ってきてくれた。



「とりあえず、パーカー脱いでこれに着替えて」

「えっ!?」

「前ボタンの方が髪洗うときに服簡単に脱げるだろ」


渡された服は森井くんのもののようだった。黒いシャツで、前でとめる形になっている。



「い、いいの?」

「小宮さんが嫌じゃなければ」

「嫌……じゃない、です」

「……うん」


嫌じゃないけれど、照れくさくて俯いたままシャツを抱きしめる。


森井くんは「部屋いってるから、着替えておいて」と言ってリビングから出て行った。





< 88 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop