初恋のうたを、キミにあげる。
人の家で着替える機会なんてそうそうないので緊張する。
けれど、待たせてしまうわけにはいかないから急いで借りたシャツに着替えた。
黒いシャツから香る、私の家とは違う匂い。
時折森井くんから香る爽やかな匂いだ。
香水とかはよくわからないけれど、シトラスに近い気がする。
森井くんの服を借りて、匂いに包まれているような感覚に顔が一気に熱くなってくる。
変なこと考えちゃダメだ。森井くんが親切で染めてくれるのに。
少しして森井くんが「終わった?」とドア越しに声をかけてくれたので、「終わりました!」と告げる。
ドアを開いて現れた森井くんは私服姿になっていた。
ユニセックスな黒いVネックの服にダークブルーのチノパン。ラフな格好なのに、オシャレでカッコよく見える。
……森井くんの私服、初めてだ。
なんだか心臓がぎゅっとなる。
「やばいな」
「え?」
「……思った以上に破壊力がやばい」
「破壊力? えっと……なにか壊しちゃった?」
あたりを見回してみるけれど、思い当たるものがない。
不安になっている私に森井くんは「気にしないでいいから」と言って、軽く頭に手を乗せてきた。