初恋のうたを、キミにあげる。


改めて考えると不思議な展開で再び緊張してしまう。


森井くんが気を遣いながらそっと私の髪の毛に触れてくれているのがわかる。

一緒の放送委員になってから、迷惑かけてばかりなのにどうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。




「そういえば前に話した歌い手のナツって人がさ、最近放送しなくなっちゃったんだよな」

振られた話題にひやりとした。

まさか私かもしれないと勘付いていて探られている? なんて頭によぎったけれど、そんなわけないよね。




「……森井くんは、その歌い手の歌声、好きなの?」

「好き」


私に言われたわけじゃないのにどきっとする。

けれど、好きだと思うのはきっと私だと知らないからだ。




「……会いたいって思うことある?」

「いや、ないかな。声とかでイメージついてるし」

「そ、か」


そうだよね。会わないほうがいい。知らないままが一番いい。


正体が私だと知って幻滅されるくらいなら、私も隠していたい。






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