初恋のうたを、キミにあげる。


「なんで?」

「ううん、なんでもないの」

私だってそうだ。

ハスキーボイスの歌い手さんは、髪の毛が短めでカッコイイ女の子なんだろうなとか勝手に想像してしまったり、アイコンが可愛い女の子のイラストだと、イラストと声でイメージを脳内で作り上げてしまう。

きっとナツだって、歌声とかのイメージで小宮星夏とはまったく違うイメージを持たれているんだと思う。


「ナツに対しての好きって恋愛とかじゃないから」

「……うん。そうだよね」

恋愛としての好きではなくても、森井くんにとってナツは好印象の相手なんだ。

私がナツなど知ったらきっと今のナツへのイメージががらりと変わってしまう。


私が歌い手をしているということを知られるのも、ナツの正体を誰かに知られるのも怖くてたまらない。

本当の私を暴かれたくない。

できればこのまま知られずにいたいとも思うけれど、隠し事をしているのもなんだかもどかしい。



「小宮さんは?」

「へ?」

「好きな人いんの?」

「えっ!?」

好きな人ってどういう意味の好きな人なのかわからず、目を丸くしてまばたきを繰り返す。

ひょっとしたら歌い手の中で好きな人はいるかってことなのかもしれない。


「どういうタイプが好きとかある?」

「えっと……歌い手の話、だよね?」

「それもあるけど、好きな男のタイプある?」


思考がイマイチついていけず、硬直する。


その間も森井くんは私の髪に液体をつけていく手を休めない。

好きな男の人のタイプという言葉が、ぐるぐると脳内を巡る。


歌い手の中で好きな男の人というわけではないよね?

ああ、どうしよう。頭がパンクしそうだ。






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