黄色い履歴書
トントントントン
       トントントントン


『ふあぁぁあ』

タケルは夢の中にまで入ってきたいい香りに誘われるかのように目覚めた



台所にはシキが立っていた
しかしタケルはすぐさまその光景に違和感を覚えた


『違う』


シキが台所に立つ場面を初めて目にするタケルであったが

ここに来て二日しか経っていないわけであって

まだ何も知らないシキが
料理上手だとしても納得できる


とすると、違和感はもっと別の何かから来るものだろう


そうそう考えていると
シキがタケルに気付き


『起きたか、ご飯だ。あと一時間したら仕事に行くが…おまえは明日が早い、ここで寝てろ』



そうか
変だと思ったんだ



微かな母親の記憶。

タケルの母親はいたって地味で
台所に立つ時は必ず椅子にかけてあるエプロンをしていた

細かい所は覚えてないが
すごくほんわかした暖かい記憶


それに比べシキは……



ドレス?
『何をそこでつったってるんだ、早く食ってしまえ』




ここからだった

俺はシキを決して母親の代わりにしなかった


できなかったんだ


シキは俺の母親像を
見事に壊してくれたから



シキの隠れた暖かさに反応して

俺の心や体が熱くなっていった事気付かなかったわけではない


でも


気付いてはいけない気がしたんだ
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