黄色い履歴書
カラン カラン
     カラン カラン

トントントントン
     トントントントン


いつもの音で目が覚めると

今度は台所にたつスーツ姿のシキに違和感を感じる


『顔あらってそこの制服を着ろ』




この人の頭の中には“あいさつ”というものがないのだろうか

いやいや僕が言いたいのはそこではない

これを着て
いったいどこに連れていかれるのだろか

そうそこである




シキは自分勝手だ

全部一人で決めて全部一人で納得してしまう



そう文句たらたらな顔でむつけていると



『チビ、今日から幼稚園だ』


『え?』



これもシキの特徴


全てわかっていると言わんばかりの人間観察


小さい僕はこの時
“シキはすごい”
そう思ったんだ






家を出てから気付いた事がいっぱいある


布団は2つ
食器も2つ
歯ブラシも2つ
そしてアパートの下には
少しさびかかったかご付きのママチャリが停めてあった
ママチャリのかごは窮屈だったが
風がとても心地よかった

何より僕にとってこの時間は
シキを知る時間として最適だった


はずなのに…

『友達を作れ』
『たくさん暴れろ』
『いっぱい甘えてこい』


シキはいっつも僕の事ばかりで
自分の事は何も言わない


『お姉ちゃんはぁ?』


『……。』
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