0.0000034%の奇跡



廊下に出たら着替え終えた彼女が待っていた。


「芹……?」


近付いて来たかと思えば僕のシャツの襟を引っ張り大胆にも唇を重ねてきた。
唖然とする僕に
「今日の撮影、智くんだけに見てほしかった。智くんだけに見せる顔で撮りたかったから」と詰め寄る。


周りには誰も居なくてスタジオからは死角になっているトイレ前。


「芹?僕怒ってないよ?ちょっとびっくりしただけ。あんな芹、初めて見たから…それより、カメラマンに嫉妬しちゃって自己嫌悪感の方が大きい…だっせぇなって」


「本当?」


「うん、余計な心配かけてごめんね?ていうかまだドキドキしてるよ、キレイ過ぎ」


優しく頭を小突いたらもう機嫌直ってる。
あれ?機嫌悪いのって僕だったんじゃなかったっけ?
まぁいいや。
この笑顔の為なら何でもするよ。


「今しか…撮れないから」


わかってる。
今しか撮れない表情もあるもんね?
大きなお腹が愛しい。
少しだけ意地悪しちゃう僕は、
ゆるふわウェーブを片側に寄せて耳元でこう囁くんだ。



「帰ったら覚悟しといてね」


ポッと紅くなる頬にキスを落として反応を楽しむ。






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