0.0000034%の奇跡





「こんにちは」


笑顔でそう挨拶してくれたのは
「あ、受付のカナちゃん」
思わず口に出してしまった。
ちゃんと予約して来てくれたんだ。


「ずっと来たかったんです〜」と嬉しいお言葉。


「ありがとうございます」


席に案内しカットから始める。


「伊藤先生、学会行っちゃいましたね」


「そうですね」


「心配ですか?」


「え?」


「伊藤先生みたいな人、ほっとく男なんて居ないですから」


「えっと……」と返事に困る。
「やっぱり聞いてないですよね…」って意味深な発言。


「今回の学会、あの人も来てるみたいなんですよ」


「あの人…?」


「歯科医師連盟の今じゃ結構重役で、確か神崎…とかって名前だったと思うんですけど、うちのクリニックにわざわざ通ってまで伊藤先生を落とそうとしてたくらいで」


ちょっと待って。
初めて聞く名前だしそんなこと聞いたことはない。
え?なに?その人が学会に来てるって?
出た……僕の知らない彼女のモテ伝説。


「そうなんですね、知らなかったです」


動揺してる事、バレませんように。
必死にカットに集中させる。






< 89 / 175 >

この作品をシェア

pagetop