ぎゅっと、隣で…… 
 夕食の時、婆ちゃんが和希に聞いてきた。


「南朋ちゃん、学校どうかね? 朝、泣いておる見たいだけど……」


「俺、クラス違うから分からん」

 和希が、チラッと俺の顔を見て言った。


「転校して来て色々あるんじゃないですか? そのうち慣れますよ。さっきもニコニコしながらお母さんと買い物していたし……」

 軽く言う母に、優一は感情のコントロールが利かなくなってしまった。


 黙っていた優一は、端を乱暴にテーブルに置いた。


「嫌な事があるから学校に行きたくないんだろ! 田川の言う事信じるからだ! 大人のくせにそんな事も分かんねぇのかよ!」


 優一は、自分でもこんな感情を口にした事に驚いた。



 そのまま、二階へかけ上がり自分の部屋に入るとドアを『バッタン!』と乱暴に閉めた。



「だんだん、難しい歳頃になるな……」

 父親の、のんきな声が聞こえた。


 そして、和希の泣き声が響いた。



「お兄ちゃん、あんたに言ったんじゃないのよ」


 母親がなだめている。


 和希は、南朋が辛い目にあっている事を知っていた。

 その事で優一が苦しんでいる事が解っていたのだろう。



 優一は、自分が何も出来ない事に悔しくて、膝を抱えると声を殺して泣いた。



 
 しばらくして、音楽会の日が来た……


 南朋の歌う姿は、優一にはやはり痛々しく見えた。

 苦手な大きな口を開け、楽しそうに歌う姿が悲しかった。


 ギャラリーに南朋の母親を見つけた。

 満足そうな顔で見ている、母親に苛立った。


 南朋が苦しんでいるのにどうして気が付かないんだよ! 

 大人なんて最低だ!


 優一は、そんな思いのまま、小学校を卒業した。
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