ぎゅっと、隣で…… 
優一は、何とも言えない胸の苦しみと苛立ちを抱え、暗い道を和希と並んでに家に向かって歩いた。

 「兄ちゃん、南朋ちゃん祭りに居たな……」


 和希の言葉に、一瞬息が詰まった。


 「ああ……」

 何も気にしていない振りをして答える。



 「何か、話したか?」


 「いや、お前は?」



 「色々話たよ……」


 「何話したんだ?」

 
 優一は気になって、思わず和希の顔を見た。



 その時、暗い道の先に人影が現れた。


「優一?」


小百合の声が耳に重々しく突きつけられる感覚に、優一は思わず眉間に皺を寄せていた。



「凄いお祭りね……」


「見ていたのか?」


「ええ、あなたのお母さんに教えてもらったの。ねえ、家にこない?」


 小百合は甘ったるい声を出し、優一に近づいてきた。



「ああ」

 優一は、断る理由も無く肯いた。




「兄ちゃん、俺、先帰るわ……」


 和希は、そう言って歩き出したが、何か言いたげに振り向いた。

 だが、何も言わず、軽く頭を下げ、また、歩き出して行ってしまった。


 何故だか、優一は和希に呼び止めて欲しかったような、そんな気持ちになっていた。



 あまりの、自分の情なさに呆れる。

 自分の思いで、何一つ動けないなんて……


 優一は、隣に小百合が居るにも関わらず、南朋の事が頭から離れなくて、どうにもならない苛立ちに襲われた。


 マンションのドアを閉めると同時に、小百合を押し倒していた。

 抵抗する小百合を激しく押さえ付けた。

 目の前をチラつく南朋の顔を消すように、小百合の胸に顔を押し付けた…… 


 抵抗していた小百合も、優一の肩にしがみ付き、声を上げ悶えた。


 無理やりに抱いた小百合に悪いとは思ったが、少しの愛しさも感じない。


 優一に小百合はいつもに増して甘えてくる。

 自分が愛されていると勘違いしているのだろうか…… 


 優一はその姿を鼻で笑った。


 自分がこれほどまでに最低な男になっている事に呆れたのだ。


 こんな俺が南朋に声をかける資格なんて、はじめから無かったのだ…… 



 南朋の事はもう忘れよう…… 

 優一は硬く目を閉じた。

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