ぎゅっと、隣で…… 
 南朋はソファーに座ったまま動けず、何を考えればいいのかも分からなかった。


「どうしたの?」


その声に南朋は顔を上げた。


優一だ。


「なんでもない」


南朋は、下を向いて首を横に振った。



遠い昔、幼い頃、優一が掛けてくれた言葉と同じだ……


そして、あの時と同じように、私は首を横に振るしか出来ない……


そして、何も言えない自分に後悔する……



何も変わっていない……


何も変わっていない自分が情ない……



「そうか……」


優一は会場へと向きを変えた。



 優一の後ろ姿を何故か目で追ってしまう。



 助けて…… 

 胸の奥が叫んでいるのに……




「優一兄ちゃんと一緒に帰れば良かった……」


 南朋の独り言のように言った声が、優一の足を止めてしまった。


「ええ?」

 優一は振り向いた。


 南朋は優一の顔をじっとみると……


「何でもないの…… ごめんなさい…… 今日はもう帰るね……」


 南朋は、体に力を入れて立ち上がった。


 とても、宴会場へ戻って秀二と何事もなかったように言葉を交わす気にはなれなかった……


「おい! どうした?」

 優一の声に、胸がグッと苦しくなったが、そのまま、出口へと向かった。


 もう、消えてなくなってしまいたい……


 もう、優一に兄ちゃんは助けてくれない……
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