ぎゅっと、隣で…… 
「仕事も忙しいでしょうに、家事も頑張っているのね……」


「まあね…… 一応主婦ですから……」

 南朋は、平然と言ったが、目の内が熱くなって慌てて指で目を抑えた。

 こんな、母のたった一言が嬉しいと思うなんて思いもせず、なんだか不思議な安心感に南朋は包まれた。


「ロールキャベツ、美味しかった……」

 南朋は涙声がばれないよう、小さな声で言った。



「何十年も作っているんだから当たり前でしょ……」

 母の言葉は素っ気ないが、嬉しそうな声だと思った。


「また、作ってよ」

 南朋も、なぜか自然とそんな言葉が出てしまった。



「沢山作ったら、お婆ちゃんに届けてもらうわね……」


「たまには、お母さん届けてよ。お茶くらい入れるわよ……」


「そうね……、そのうちにね……」

 母の声は微かに涙で枯れていた……


 じゃがいもの皮剥く南朋の姿を、母はふと何か気になるように見た。


「南朋、あなた……」


「なに?」


「いいえ。何でも無いわ……」


 母が言葉を呑んだ。


 南朋は、母の言いたい事が分かった気がしたが、母も南朋もそれ以上何も言わなかった。

< 85 / 113 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop