ぎゅっと、隣で…… 
「ああ、あれね……」

 翔も思い出したように和希と目を合わせた。


「翔バカだから、兄ちゃんに南朋ちゃんがクラスの男の子と手を繋いで帰って来た話しちゃってさぁ。兄ちゃんの顔めちゃ怖くなって走り出しちゃって…… 
 俺、途中で付いて行けなくなって帰って来たけど、翔の奴、兄ちゃんの後必死で付いて行ったんだよな……」

 和希が懐かしそうに話し出した。


「後で知ったけど、五キロ以上あったらしいよ。途中で知らない場所だって解って、もう、優一兄ちゃんに着いて行くしかなかったんだよな…… 今でも、苦しくなるとあの時の事を思い出すんだよ。置いてかれたら迷子だと思うと走り抜けるんだよな……」


 翔の懐かしそうな話しに皆の笑い声が響いた。


「本当、兄ちゃんの『南朋好き』には俺達、ガキの時から振り回されっぱなしだよな! 
 祭りの時なんて、喧嘩の後始末までさせられたんだから…… 兄ちゃん南朋ちゃんの事になると、平常心失うからさ…… いつもは優しくて余裕のある顔してんのにさ! もう、結婚したんだから、勘弁してくれよ……」


 和希と翔の会話に、又、皆が笑いだした。


「覚えてねぇよ!」

 優一のふて腐れて言った顔は、耳まで赤くなっていた。



 そんな賑やかな中でも、婆ちゃん達は黙ってテレビを見ている。




 南朋は皆の笑い声に、優一と結婚出来て本当に良かったと、幸せを噛みしめ優一を見た。

 優一は照れ臭そうな顔で南朋と目を合わせた。


 南朋は、優一が好きだ…… 

 優一が居るという安心感が南朋をいつも暖かく包み込んでいる。


 そして、今、初めて母の気持ちが少し分かる。

 ただ、母も南朋の幸せを願って頂けなのではないかと…… 


 ふっと皆を見守るように立っていた母の目が、何故か南朋の背中を押したような気がした。
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