星夜光、きみのメランコリー
prologue
——【星野光(せいやこう)】
星や星雲の集まりのこと。夢をカタチにしたら、こんな感じなのかなって思っていた。ずっと、俺の夢は星野光のようだと思っていた。
銀色、金色の光が集まって、吸い込まれそうなほど深い黒の世界で輝いている。いや、輝きたいと必死にもがいているのかもしれない。
…黒い、暗い世界。底のない世界。そこで必死に自分を主張している様が、昔から自分と重なっていた。
本当に、ずっと幼い頃から。
じっと、目を凝らしてみる。泣きそうなほど輝いているそれらは、まるで目を通り越してその先の心にまで突き刺さってくる。
たまに、たまらない気持ちになるけれど、それに負けじとじっと見つめ返してやった。
靴の裏に擦れる土を踏む。そのまま、少し前に見つけた自分だけの場所に、そっと腰を下ろした。
枯れかけた芝生が生えているそこに背中を預けて、寝転ぶように座り込む。
いつもより綺麗で澄んだ空は、輝いていた星たちの集まりを静かに見守っているようだ。
真っ暗な世界。
ぎゅっと右手を握りしめる。家から持ってきたスケッチブックを隣に置いて、ポケットに入っていた1本の鉛筆を取り出した。
意味もなく、それを空にかざしてみれば、周りの景色がぼやけて見えた。
…でも、これでいい。もう、色を付けるのはやめた。俺が持つべきものは、この1本の黒い鉛筆だけでいい。
輝きを引き立てるのは、黒だ。漆黒だ。そう思いながら、生きている。
そう信じたくて、毎日のように、ここに足を運ぶ。ここに来れば、気持ちが落ち着いた。自分だけしかいない世界をつくりあげられると思っていた。
どうして、俺はここにくるようになってしまったのか。
そう問いただすのも、もうやめた。
最初は、何度も何度も問いかけた。その理由を探していたから。
でも、その答えはきっと簡単なものなんだ。
この大嫌いな世界で生きることが、少しだけ救われたような気分になる。
…きっと、ただそれだけ。
誰も来ない、公園の柵を越えたところにある場所。
この世界に絶望していた時に、見つけたところ。何の変哲も無い、特別でもなんでもないこの場所だけれど、それでも自分だけの世界だと思っていた。
…でも、違ったんだ。この日だけは。
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