星夜光、きみのメランコリー
千歳くんは、自販機で緑茶を買った。
あまり甘いものは飲まないらしい。さっきメロンパンで甘い甘い言っていたから、少し納得。
千歳くんの背中を追いかけてここまで来たけど、彼はそのままその辺りをうろうろと歩いていた。
「千歳くん、教室帰らないの?」
思わず、声をかける。あたし、勉強しないとまずいんだけどなあ。まぁ、あんまり勉強自体好きじゃないし、やりたくもないんだけど。
「…30分だけ付き合ってよ。絵、描きたい気分」
「絵?」
「そう。スケッチブック持ってきた」
「…」
おいで、と、校舎の裏側にある芝生が広がった場所に腰を下ろす。いつもの放課後は、サッカー部の休憩所と化しているこの場所も、今日はあたしたちだけ。
いつの間にスケッチブックなんて持ってきたんだと思ったら、小さいサイズのものをずっと左手に持っていたらしい。
いつものように鉛筆をポケットから取り出すと、千歳くんは自由気ままにそれを走らせた。
「…」
本当に気まぐれ屋さん。あたしも人のことは言えないけど、突然飲み物を買いに行きたいとか言ったり、絵を描きたいとか言ったり。
千歳くんが絵を描く姿は好きだから、頬杖をついてそれを見つめるけど、なんだかいいように付き合わされている気もする。
「…ちょっと、こんなとこで寝転ぶなよ。前も言ったよね?」
「だってぇ、退屈なんだもん。あ、これあたし?かわいい!」
「人の話聴いてる?」
目元を描いている時でもう分かった。千歳くんは、またあたしを描いてくれている。
今日は、スケッチブックいっぱいに、あたしの顔が浮かんでいく。こんなに堂々と描かれたことないから、自分とにらめっこをしている気分になってくる。
また、切りすぎた前髪から覗く眉。少し恥ずかしいけど、今ではこの前髪も少しお気に入りだ。
千歳くんに、描いてもらった日から。