星夜光、きみのメランコリー
じっとその絵を見つめていたら、みるみるうちにあたしが出来上がっていく。
目元だけじゃあまり分からなかったけど、あたしの全体が見えるようになってから、気づいた。
…これは、笑ってるあたしだ。
「…このあたし、かわいい」
「だから、ナルシスト?」
「ううん、違うけど…」
あたし、こんな風に笑えているのかな。千歳くんの前では、こんな笑顔を向けられているのだろうか。
それとも、千歳くんの想像? 3割り増し?
「あたしってそんなに笑ってる?」
作り笑顔でもない、心から笑っている自分を見ると、なんだか変な感じだ。人の目ばかり気にしていたあの頃のあたしにとっては、想像もできない表情。
「…天香は、いつも笑ってるけど。初めて会った時からそうだったよ」
「……」
…千歳くんに、初めて会った時。それは、夜の公園。
あの時のことを思い出すと、また右手がズキンと痛んだ。
あぁ、そうだ。あたしは、あの時も…。
「…千歳くん、」
「俺にとっては、これが天香だからいいんだ」
「千歳くん…!」
「天香、」
「…っ」
ズキンと痛んだ右手が、青空を背景に太陽の光に当てられた。
思わず身体を起こすと、千歳くんの冷えた手によって握り締められていることに気づく。いつもは温かいはずなのに。さっきまでお茶を握り締めていたせいだろうか。
「…千歳くん、」
あたしの右手には、似合わない青空。忘れたはずなのに、忘れたいはずなのに、時々襲ってくるこの黒い感情。
どうにかしたいのに、千種に出会ってから、魔法にかけられたはずだったのに、忘れた頃に解かれてしまう。
…千歳くんに出会った時だって、そうだった。
「…あたし、また自分で傷つけてた…」
「は?」
「…自分で、傷つけたの。千歳くんに初めて出会った時、あれはケガなんかじゃなくて、本当は…」
「…」
木々の枝が伸びて、それに触れて小さい傷が付けられたのは本当だ。でも、それはほんの一部に過ぎない。
…あたしは、そのあとその枝を持って、再び自分の右腕に傷をつけた。
あたしの中に流れている“ 赤 ” が、流れ落ちてくるその瞬間まで。