星夜光、きみのメランコリー


じっとその絵を見つめていたら、みるみるうちにあたしが出来上がっていく。

目元だけじゃあまり分からなかったけど、あたしの全体が見えるようになってから、気づいた。


…これは、笑ってるあたしだ。



「…このあたし、かわいい」

「だから、ナルシスト?」

「ううん、違うけど…」


あたし、こんな風に笑えているのかな。千歳くんの前では、こんな笑顔を向けられているのだろうか。

それとも、千歳くんの想像? 3割り増し?


「あたしってそんなに笑ってる?」


作り笑顔でもない、心から笑っている自分を見ると、なんだか変な感じだ。人の目ばかり気にしていたあの頃のあたしにとっては、想像もできない表情。


「…天香は、いつも笑ってるけど。初めて会った時からそうだったよ」

「……」


…千歳くんに、初めて会った時。それは、夜の公園。

あの時のことを思い出すと、また右手がズキンと痛んだ。

あぁ、そうだ。あたしは、あの時も…。


「…千歳くん、」

「俺にとっては、これが天香だからいいんだ」

「千歳くん…!」

「天香、」

「…っ」


ズキンと痛んだ右手が、青空を背景に太陽の光に当てられた。

思わず身体を起こすと、千歳くんの冷えた手によって握り締められていることに気づく。いつもは温かいはずなのに。さっきまでお茶を握り締めていたせいだろうか。


「…千歳くん、」


あたしの右手には、似合わない青空。忘れたはずなのに、忘れたいはずなのに、時々襲ってくるこの黒い感情。

どうにかしたいのに、千種に出会ってから、魔法にかけられたはずだったのに、忘れた頃に解かれてしまう。


…千歳くんに出会った時だって、そうだった。


「…あたし、また自分で傷つけてた…」

「は?」

「…自分で、傷つけたの。千歳くんに初めて出会った時、あれはケガなんかじゃなくて、本当は…」

「…」


木々の枝が伸びて、それに触れて小さい傷が付けられたのは本当だ。でも、それはほんの一部に過ぎない。

…あたしは、そのあとその枝を持って、再び自分の右腕に傷をつけた。


あたしの中に流れている“ 赤 ” が、流れ落ちてくるその瞬間まで。



< 109 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop