星夜光、きみのメランコリー
あたしの大きな傷口は閉じたはずなんだ。
千種にも受け入れられて、家族はあたしに対して何も言わなくなった。
あたし自身だって、もう前に進んでいるはずなのに、右手は少しずつ動かせるようになっているはずなのに、時々やってくるこの感情が、恐ろしい。
「…あたし、使えなくなったこの腕が、いっそなくなればいいのにって…たまに…思うことがある……」
青空なんか似合わない。太陽の光なんか、似合わない。そんなものに照らされている腕が、きらいになる日がたまにある。
気持ちをコントロールできないあたしが、なによりもきらいだ。
「…だから、千歳くんの、指先が欲しいって思うのは…、ほんとうで…」
「…」
目の前の笑顔のあたし。確かに千歳くんにはそう見えているのかもしれないけれど、本当のあたしには、あたしは見えない。
こんなにきれいじゃない。あたしは、もっと…。
「…さっき、“ そんなこと言ったら目んたまほじくる ” って言ったのは、お前だよな?」
「…?」
あたしの傷口を見つめながら、千歳くんは言った。
さっき、千歳くんが自分の作品について卑下した時に、あたしが言った言葉だ。
なんてことを言ったんだろうと、今更後悔しても遅いけど、千歳くんはあたしの方をじっと見つめた。
その目の色に吸い込まれそうになっていると、傷口に温かいものが当たったのが分かって、ビクッと身体が震えた。
当たったのは、千歳くんの頰。
「…そんなにこの腕がいらねーなら、俺が噛み切ってやろーか」
「…!」
白く残った痕を、ツウ…と指先で撫でられる。
感覚が残っているところから、千歳くんの肌の感触が伝わってきて、何も感じないはずの指先まで震えた。
「…ち、とせ、く…」
「…」
恥ずかしくなって、千歳くんが転がしていたスケッチブックと鉛筆の方に目を向けると、傷口にピリリと痛みが走った。
「……!」
さらに熱い熱。立てられた歯。
「…千歳く…?何して…」
「何って? いらないんでしょ」
「…!」
意地悪くあたしの方に視線を向ける彼は、あたしの腕の傷口にもっと強い力で噛み付いた。
じん…と伝わってくる痛み。痛いはずなのに、熱く震える身体。
知らない。こんなの、知らない。