星夜光、きみのメランコリー
ぎゅっと閉じた目から生まれて流れてきた涙は、頰を伝って落ちて行くのかと思いきや、途中で止まった。
さっきまで痛みを与えられていた腕はダラリと下に落ちて、代わりに温かいものが全身を包んでいることに気づく。
「…っ」
…この匂いと体温を感じるのは、2回目。
「——俺がいいって言ってんだから」
色々な感情が沸き立って、爆発しそうなくらいパンパンだった頭を、ふわりと抱えられた。
そのまま、ゆっくりと、同じ間隔でやさしく撫でられる。
「…意地悪した。ごめん」
「……っ」
「でも、自分で傷つけることは二度とするな」
「…千歳く…」
「天香を泣かせていいのも、傷つけていいのも、俺だけだ」
グイッと涙を拭っていった指先を追いかける。暗い世界に閉じ込められていたあたしが太陽の光に当てられると、千歳くんはやさしく笑った。
「…お前が欲しいものを、俺が持っているのはよく分かった。でも、俺が欲しいものを持ってるのも、お前だよ」
「千歳く、」
「お前は変じゃない。前に言ったでしょ、“ お前の世界を、俺も大切にしたい ”って」
「…っ」
ぼろぼろと溢れてくる涙を、ひと粒ひと粒ちゃんと拾ってくれる千歳くんが、あたしには王子様に見えた。
千種と騒いでいた頃と同じじゃない。ちゃんと、あたし自身のことを分かってくれる、王子様。
「…千歳くん」
「ちょっと、暑いんだけど。てか前に二度と抱きしめないって俺言ったよね」
「抱きしめたのは千歳くんです」
「…まぁ、そーだけど」
それでも、あたしの心を溶かしていくように、やさしい熱を与えてくれる千歳くんが、だいすきだと思った。