星夜光、きみのメランコリー
憎まれ口を叩きながらも、少し怒ったような呆れたような顔で、千歳くんはあたしに触れていた。
額の汗を拭ったり、頰をつねったり。
たまに意地悪をするけれど、きっと千歳くんも、あたしのことはきらいじゃないと思う。
こんなことを言ったら、多分ものすごく怒られてしまうんだろうけど。
「もう、泣きやんだの?早いね」
「千歳くんにあんなこと言われて、いつまでも凹んでいられないよ」
「ふーん」
頬杖をつきながら、あたしの前髪を撫でる千歳くんに笑ってみせた。思ったよりも、自然に笑えた。きっと千歳くんは、こんなあたしを絵に描いてくれたんだ。
「…じゃ、戻ってテスト勉強でもする?」
「はっ!そうだ…それがあったんでした…」
「ばかなの?」
ピン、と、おでこを弾かれる。それを痛がっていると、また千歳くんは笑った。
「ほら、早くこれ付けな」
リストバンドを差し出される。もうすっかり半袖になった今、これは必須アイテムだ。
見られてもいいけど、知らない人はびっくりさせてしまうからね。
千歳くんからそれを受け取って、さっきビリビリと震えていた自分の腕に装着しようとした。
…その時だった。
「…ん?」
いつものごとく、縦に入っている白い傷口。その横に、クッキリと残っている歯形。…と、赤い痕。
歯形はまぁ、あれだけ強い力で噛まれたから仕方ないとして…。この赤いものは一体なんだろう。
「…ち、千歳くん…」
「なに」
「いや、何じゃなくて…あの、この赤いやつ は、一体いつ…」
「知らねぇ、蚊にでも刺されたんじゃないの」
「…」
…そうか、蚊か。なるほど。
って、そんなわけないでしょーー!!
「ち と せ く ん…!!」
「いらねーんでしょ?だったら俺のにしてもいいじゃん」
「何ですか!その理屈!意味わからないですよ!!」
千歳くんのやさしさは、たまによく分からないことがあるけれど、それでもあたしは気持ちが落ち込んだその次の瞬間にはこんなにも普通に戻っている。
それは、まぎれもなく、千歳くんのおかげだと思うんだ。