星夜光、きみのメランコリー
暑くてめくりあげたシャツの下から、右手首が見えている。
昨日、一色くんがギュッと握りしめてくれた場所。縦に入った傷跡をなぞれば、彼が込めていた力が戻ってくるように思えた。
一色千歳くん。
あたしたちの学年では、ひときわ目立つ。千種だって「王子」と呼んでいたように、彼は他の人とは違う空気を纏っている。
名前を覚えるのも当たり前だ。あんなに綺麗な髪、ほかに見たことがない。
今でも思う。昨日話せたことが、ラッキーだったって。
「…ねえねえ、一色くんの髪ね、あなたにちょっと似てたの」
ノートにいるひとつの色を指差して、そっと話しかける。1人で話していたら、変な目で見られることだって知ってる。
“ にてる? どんなところが? ”
「あのねぇ、なんていうか、静かにキラキラと輝いてるの。やさしい色なの。一色くんも、やさしい人なのかも」
くすくす、と思わず笑ってしまった。その瞬間に、バシッと後頭部に重みが乗った。地味に痛い。おそるおそる振り向いてみると、数学担当の川端先生がこちらを睨んでいるのが目に入った。
…あぁ、やっちゃった。
「彩田ァ、お前、ちょっとボーっとしすぎだろう。顔洗ってこい、顔!」
数学のノートを開きもしないで、表紙にいる色たちと話をしているのだから、川端先生(通称:バッチャン)が怒るのも少し理解できた。
…いや、少しと言うより、かなり。
千種から呆れた顔を向けられ、クラスメートからクスクスと笑い声があがる中、あたしは教室を出た。
顔なんて洗わないけど。メイク落ちるんだもん。