星夜光、きみのメランコリー


「帰るよ。出ようとした時に天香が見えたから寄っただけだし」


…どうして、こんなことを言うんだろう?


「テスト、バカにしたかったから?」

「は?何言ってんの」


それとも、千歳くんにとって今までのことも、今日のこの瞬間のことも普通なのだろうか。

あたしも今まで何人かと付き合って恋をしてきたつもりだけど、分からないなあ。

千歳くんだけ、分からないなあ。


「そんなに俺を性格の悪い男にしたいわけ。ほら、帰るよ」


窓が、がらがらと鋭い音を立てて閉まった。
すりガラス越しに見えている影は、出入り口のドアのところで止まっている。きっと、待っててくれているんだ。

また、リストバンドを見ると切なくなった。あの時のことを思い出すと、熱くなるのに、不安も大きくなった。


…あたし、千歳くんのこと、ちょっとずつすきになってきてるのかなあ。

でも、こんなことを彼に聞いたら、またきっと不思議な顔をされる。バカにはしないだろうけど、なんとなく、良い反応は返ってこない気がする。

だから、今日聞くのはやめにする。何でもかんでも、突っ走るのはやめにする。


「千歳くん」

「うん?」

「一緒に帰りたい」

「うん、そのつもりで待ってたんだけど。改まって、なに」


ううん、と首を振った。

ジッとあたしの方を見た後、少しずつ歩き始める彼の後ろを追いかけるように、あたしも歩く。

千歳くんとは、グッと距離が近くなったような気がする。

でもやっぱり、まだ分からないことばかり。



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