星夜光、きみのメランコリー
それでも、1人で出て行くのはさみしいから、数学のノートだけは持ち出した。
ガラリと教室のドアを開けて廊下に出ると、生温かい風が髪をさらって行く。
もうすぐ夏だ。ちょっと動けば汗を掻く。
左手首につけていたシュシュを引っ張って、長い髪を1つに束ねた。くるくるの髪。今のパーマはお気に入り。可愛いんだもん。
「ねえねえ、暇だねぇ」
歩きながら、廊下に溢れた色たちに話しかけた。昔からここに存在する色。くすんでしまったり、汚れてしまったりした色だとしても、ちゃんと生きている。
「このまま、サボってもバレないかな」
廊下の壁の色をなぞって、くすぐりながら聞いた。
“ どうせあとで怒られるよ ” と言うように、呆れた声で返された。
うん、そうだ。あとで絶対、バレるのは分かっている。でもバッチャンはきっと、何だかんだ許してくれるんだ。そういう人だもん。
少し罪悪感はありつつも、そのまま外に出てさらに生温かい風にあたった。
数歩歩けば、芝生の中に生きている色たちがザワザワと騒ぎ出す。
きいろ、みどり、きみどり、ちゃいろ。
普通の人たちは、この世界をそんな言葉で表現するんだってことを、知った。
そんな名前をつけられたコたちのところに、ゴロンと寝転ぶ。
「ふわぁ〜あ」
心地いい。太陽の光も、いい具合に木々の葉っぱに隠れて。このままお昼寝出来ちゃえば最高だ。
…なーんて、そんなことを考えていると、そんなに時間が経たないうちに、急に視界が暗くなった。