星夜光、きみのメランコリー





土曜日。

少しずつ気温も高くなってきて、涼しい風が心地よくなってきた日の午後。

部屋で1人ごろごろと寝転んでいたら、下にいたお母さんから声をかけられた。


「おばあちゃんのところに、これを届けてきてくれない?」


あたしの部屋のドアを少しだけ開けて、申し訳なさそうに言う。手に持っていたのは、いくつかの野菜たち。うちの畑でとれた鎌倉野菜だ。


うちの家は、あたしが小学校に上がる時に鎌倉野菜を使ったカフェをオープンして、それを細々と運営している。
農家生まれのお父さんが、脱サラして始めたらしい。


色合いの綺麗な鎌倉野菜たちは、観光客に人気。最近店も改造して、可愛らしい見た目にしたからか、来客には若い子たちが多くなってきた気がする。


そんなお店に出す同じ野菜を、歩いて15分くらいかかるところにあるおばあちゃんのところへ届けて欲しいということなのだ。



「…うん、わかった」


野菜を受け取る。やさしく笑うお母さん。でも、今日もよく分からない表情を垣間見せた。


「ごめんね。天理(てんり)も部活でいないから…」

「うん、大丈夫。今から行ってくる」


天理は、あたしの弟。今は中学2年生。バスケをやっていて、部活部活の彼は、あまり休日は家にいない。

それはいい。楽しんでくれて、大丈夫。今しかできないことなのだから。

でも、お母さんのこんな顔を見るのは、まだ慣れない。あたしが部活に入らないのは、ただ単に自分の時間が欲しいだけなのに。


力なく離したお母さんの手を横目に、部屋から出た。後ろを振り返らないで、たんたんと階段を降りていくあたしに、お母さんは何も言わなかった。


…暑い。

もう、半袖の季節だな。上着なんか着ていたら、熱中症で倒れそうだ。



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