星夜光、きみのメランコリー
“ また描きたいのかしらって思ったんだけど”
おばあちゃんの言葉が、心の中でこだまする。
きっとなんとなく発された言葉が、あたしの心臓をえぐってくる。
描きたいのか、なんて、しばらく聞かれたこともなければ、自分で考えたこともなかったや。
あんなに、何枚も何枚ももらった賞状も、ただの紙切れに思えてくるくらい。
「天香、ご飯も食べて行く? もう家で用意してあるのかしら」
あたしの目の前にお茶を移動させながら、おばあちゃんが言った。
夕飯のことは、特に何も聞いていない。だけど…。
「…うん。今日はお家に戻るね」
なんとなく、その場にいるのが嫌だった。おばあちゃんのせいでもなんでもない。あの連なった名前を見てしまった、自分が悪い。
リストバンドで覆われたところが、ジワリと汗を含んできた。
暑くて腕を晒す時期。そんな季節を乗り越えるためには、これは必須アイテムだ。
でも、そこだけは汗に包まれて、最悪な場合は汗疹(あせも)なんてできてしまうのだから、まったく厄介だ。
…夏なんて、きらいだ。
少しの間、おばあちゃんと話をして、目の前に出されたお菓子とお茶を食べ終わると、すぐに席を立った。
「おばあちゃん、また多分すぐに来るよ」
「あら、そう」
とんとんと、ヒールの高いサンダルを履きながら、言葉だけを発する。
「うちの鎌倉野菜、今色々育ってて。お店に出しきれない分が出てくると思うから」
「うん、いつでもおいで。待ってるよ」
玄関に手をかけた時に、一度だけおばあちゃんの方を振り返った。ニコっと笑った先には、また何枚もの賞状があたしの方を向いていた。
“ 彩田 天香 ”
そう、あたしの名前を作り上げているその色とは、やっぱりいつまでたっても、仲良くはなれそうにない。