星夜光、きみのメランコリー

・・・


「はぁ〜…」


おばあちゃんの家を出てから30分。なんとなく家に帰りたくなくて、ただボーッと鎌倉の町を歩いていた。

だんだんと薄暗くなって、空を見上げると一番星である金星がひとつ。


家には適当に連絡を入れて、夕飯は先に食べてもらうことにした。天理がまだおそらく帰ってこないから、それから食べることになるんだろうけど。


…なんとなく、本当になんとなく、帰りたくなかったんだ。


こんな時に、千種がいてくれたらとも思うけど、彼女は今日は家族とお出かけ。それはもう金曜日に知らされていた。


土曜日の鎌倉は、外国人とか観光客でいっぱいで、駅周りはごった返している。もちろん、あたしの家の最寄駅も同じ。

観光地の大仏さんがあるからね。


ぞろぞろと駅に向かって歩いているのであろう人たちを横目で見ながら、また小さくため息をついた。

なんのため息かは分からない。今日は、なんとなくが多い日。




…“ 天香 ”


不意に呼ばれた。聞き慣れた音だ。人じゃない。名前を呼ばれた方に顔を向けると、そこは空だった。


大きな月が、ひとつ。
今日は、まるまると太っている。



「あー…、今日は満月かあ」


呼んだのは、きっと月を作り上げる色。



“ 今日はみんないるからな ”


「うん、見えてる。1ヶ月ぶりの子もいるねぇ」


手をかざして、ふふふと笑う。この大きなお月様をつくっている色は、果てしなく多い。

きっと、あたしが見ているのも、極一部なんだろう。


「そっかあ、今日は月が綺麗な日なんだね」


ひとつひとつの色が輝く、いわば晴れ舞台。周りに集まってきている星も嬉しそう。



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