星夜光、きみのメランコリー


気がつくと、目の前はヘーゼル色に覆われた。その中に存在する色が、あたしを捕まえる。


「“ 天香”」


低い声と、その色の声が、重なって聞こえた。たぶん、一緒に呼ばれた。



「……っ、一色くん…」

「なんでまたここにいるんだよ? つーか、なんで泣いてんの? 」

「…っ」


冷たい涙が伝っていった場所が、温かいものに包まれていた。思わず手を伸ばして確認すると、骨張った大きな手が、そこにあった。



「…一色くんも、なんで…」

「まずは俺の質問に答えろ。 そして名字に戻ってる」

「千歳くん…?」

「そう、そう呼べって言ったろ」


ぐいっと、乱暴に涙を拭われた。少しだけ怒っている彼の顔。いつもこんな顔してるけど、今日はそれ以上に険しい。


「危ないからこんなとこまで来るなって言ったよな?」

「うぇ…、ごめんなさい」

「謝って済むなら警察はいらねーんだよ」


ペシッと、おでこを叩かれた。ついでに残っていた涙を拭って、彼の大きな手は離れていく。

…私服だ。あの時と同じ。でも、今日は半袖。暑いもんね。


「千歳くんも、月を見に来たの?」

「は? 俺はだいたいいつも来るよ。気まぐれなお前と違ってな」


しかめっ面がこっちを見た。そこにごろりと寝転ぶと、彼のポケットから鉛筆がコロリと転がってくる。

手にはスケッチブック。こんな夜にも、持ち歩いているのか。どうやって絵を描くつもりだったんだろう。


「…お前、なんで泣いてんの?」

「えっ?」

「カレシにでもフラれた?」


目を瞑って、はぁと小さくため息をつく千歳くん。

…やっぱり、知りたいことはすぐに聞く。あたしの気持ちも御構い無しに。


< 48 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop