星夜光、きみのメランコリー
気がつくと、目の前はヘーゼル色に覆われた。その中に存在する色が、あたしを捕まえる。
「“ 天香”」
低い声と、その色の声が、重なって聞こえた。たぶん、一緒に呼ばれた。
「……っ、一色くん…」
「なんでまたここにいるんだよ? つーか、なんで泣いてんの? 」
「…っ」
冷たい涙が伝っていった場所が、温かいものに包まれていた。思わず手を伸ばして確認すると、骨張った大きな手が、そこにあった。
「…一色くんも、なんで…」
「まずは俺の質問に答えろ。 そして名字に戻ってる」
「千歳くん…?」
「そう、そう呼べって言ったろ」
ぐいっと、乱暴に涙を拭われた。少しだけ怒っている彼の顔。いつもこんな顔してるけど、今日はそれ以上に険しい。
「危ないからこんなとこまで来るなって言ったよな?」
「うぇ…、ごめんなさい」
「謝って済むなら警察はいらねーんだよ」
ペシッと、おでこを叩かれた。ついでに残っていた涙を拭って、彼の大きな手は離れていく。
…私服だ。あの時と同じ。でも、今日は半袖。暑いもんね。
「千歳くんも、月を見に来たの?」
「は? 俺はだいたいいつも来るよ。気まぐれなお前と違ってな」
しかめっ面がこっちを見た。そこにごろりと寝転ぶと、彼のポケットから鉛筆がコロリと転がってくる。
手にはスケッチブック。こんな夜にも、持ち歩いているのか。どうやって絵を描くつもりだったんだろう。
「…お前、なんで泣いてんの?」
「えっ?」
「カレシにでもフラれた?」
目を瞑って、はぁと小さくため息をつく千歳くん。
…やっぱり、知りたいことはすぐに聞く。あたしの気持ちも御構い無しに。