星夜光、きみのメランコリー
それにしても、千歳くんの口から“ カレシ ” なんてワードが出てくるのは、なんだか不思議な感じがする。
なんとなく。
「カレシなんて…、今はいないよ」
「ふーん、“ 今は ” ね」
「なにその、意味ありげな感じ」
「なんも意味はねーよ」
軽く笑われた。彼の大きな胸が上下する。その様子をじっと見つめていると、それに気づいた千歳くんは、すくっと起き上がる。
「…お前みたいな女も、男にフラれたらそうやって泣いたりすんのかなって、ちょっと思っただけ」
あたしと同じ体育座りになって、涼しい目をこちらに向ける。暗闇でも光っているそれは、やっぱり綺麗。星のようだ。
「…泣くよ、女の子だもん」
「ふうん」
「ちなみに前に付き合ってた人たちには、色に心が見えるって話をしたら“ 頭おかしい ” と言われてフラれました」
「ははははは」
「ちょ、笑うとこじゃなくないですか!? しかも棒読み!!」
バシッと、思わず背中を叩いた。少し汗ばんでいる。暑いからね。
それでも千歳くんは、あたしのことは笑わない。きっと、心から“ おかしい ”なんて思ってはいない。
それは、伝わってくるんだ。とても。
わざと、頰を膨らませて見せた。千歳くんのやさしさは知ってるけど、フラれたことをバカにしてきたお返しだ。
それを千歳くんは見て、また少し肩を揺らしていたけど、そのままポンと頭に手のひらを乗せてきた。
…重い。でも、あたたかい手。
「天香の生まれ持った能力をそんな風にいう男なんて、そんだけの男なんだよ」
やさしい言葉。千歳くんは、魔法使いだ。
泣きたくもないのに、自然と目の前が歪んだ。
…今日は、色々とダメな日だったから、余計。