星夜光、きみのメランコリー
暗くてよくは見えなかったけど、肩より下まで伸びた髪の先は、遊んでいるようにカールがかかっている。
短い前髪の下には、子どものような細い整った眉。星色に輝いていた目は、こぼれ落ちそうなほど大きい。
「…でも、残念だ。生まれてきた色が、一色くんによって捕まえられてしまった」
「…ハ?」
その、大きな目がこちらを見る。まるで、何かを企んでいる悪い子どものよう。
「でもまあ、いっか。一色くんのハンカチに移ることができたみたいだし。あっでも、このハンカチの色と混じっちゃったら、また違う子になってしまうかなあ」
「……何言ってんの?」
言っていることが、よく分からない。
ハンカチに移る? 混じる? 違う子?
さっきから何かおかしいと感じてはいたけれど、今確信してしまった。やっぱり、目の前のこの人間は、ちょっと変わっている。
「世の中の色はね、全部いきているんだよ。一色くん」
すっと、俺の手のひらから腕を放して、包んでいたハンカチを広げて空に掲げる。
「色には、いのちがある」
「…?」
「一色くんも、そう思わない?」
俺に背中を向けて、ひたすら星の光を浴びせるようにそれを広げる彼女は、消えていきそうなほどやさしい声でそう言った。
言っている意味は分からない。でも、吸い込まれそうなほど、目を惹かれる。
…星野光の、一部の星のようだと思った。
「…セイヤコウ、だね。一色くん」
彩田 天香はそう呟くと、そのまま彼女の一部が染み付いた俺のハンカチを下ろした。
力なく垂れる細い腕。驚くほど白い。透き通るようなその肌に、一本の傷が見えるのは、ここを囲っている木々のせい。