星夜光、きみのメランコリー
引っ張られた腕。嗅ぎ慣れない匂い。耳に触れる柔らかいもの。そして、触れたことのない、熱。
「…よかったじゃん。俺ここにいるよ」
「…………」
耳に響く、声。
「…あ、あの、千歳く…」
「黙ってれば」
「は、はいぃ…」
「ふ、色気ねーな」
千歳くんとの距離が、ものすごく、ものすごく近くなって、自分が彼の腕の中にいるということに気づいたのは、ぎゅっと力が込められた時だった。
「…何があったのか知らねーけど、」
大きな手が、あたしの頭の上を滑る。
「大丈夫だから。天香はそれでいいから。間違ってなんかない。」
大丈夫大丈夫と、小さな子どもをあやすみたいに、千歳くんはしばらく頭を撫でてくれた。
…魔法の手。いつも、黒から命を吹き込んでいるその指先。
あたしが欲しいと思った指先が、今はあたしを包み込んでいる。
あたしのために、動いている。
「…千歳くん」
「俺がいいって言ってんだから、それでいーんだよ」
「うん…」
大きい背中に腕を回した。やっぱり少しだけ、汗ばんでいた。
千歳くんは、すごい。
何を話したわけでもないのに、こうしてあたしの気持ちを溶かしていく。
醜かった黒い気持ちを、まるで輝いた星のような色に変えていく。
「千歳くんの匂い、いい匂いする」
「はっ? 変態かよ。もう離れろ、怖い」
「怖いってなんですかー!そんな変態を抱きしめたのは千歳くんです!」
「もう二度とやらねぇ」
でも、ちゃんと分かってるんだ。
千歳くんが、あたしを励ますためにしてくれたことだって。
千歳くんの気持ちだって、ちゃんと、伝わってるよ。