星夜光、きみのメランコリー
千種はそのあと、「嬉しいけどなんだか悔しい」とぼやいていた。あたしのことをちゃんと理解してるのは自分だけだって思いもほんの少しだけあったんだって。
それでも、そのあとはちゃんと笑って「よかったね」って言ってくれた。
そんな千種がだいすきだと思った。
「千種、今日はまた部活だよね?」
「うん、そーだよ。大会も近いからね、頑張らないと」
もぐもぐと口を動かしながら、力こぶをつくると動きをした。今日の放課後も、やっぱり千種とはいられないらしい。
「いつもごめんね。オフの日にはどっか遊びいこーね」
「うん、楽しみにしてる」
「天香は、今日はもうそのまま帰るの?それとも」
「今日もね、実は放課後、千歳くんと会う約束してるんだ」
思わず、千種の言葉に被せてしまった。おっと、いけない。人の話はちゃんと最後まで聞かないと。
ハッとして、思わずごめんと呟くと、千種はまたさらに驚いた顔をしていた。豆鉄砲をくらった鳩のようだ。
「放課後も会うの!? 王子と!?」
ガタッと、机と椅子が擦れる音がする。あまりの迫力ある声に、身体が仰け反った。
「…って、ごめん。大声出しすぎた」
「ううん、大丈夫だけど。女子に広がらないようにしなよって言ったの千種だよ…」
「ウッ…、だってさあ」
顔が赤い。チラチラと向けられる視線に、千種の身体は小さく縮こまった。コソコソ声。彼女なりに気を使ってくれているらしい。
「もう、あんたたち本当何なのよ? それ、千歳くんが言ったの?」
「うん、まぁ、そうだね。でもね、千歳くんよくお友達の代わりに図書委員の仕事してるんだって。だから暇なんじゃないかな」
「いやいや…。それに天香を誘ってくるあたり、もうなんか意図を感じるよ…」
意図? どんな意図だろう。
あたしは千歳くんに会う話をしただけなのに、勝手に恥ずかしそうにしている千種に笑いそうになった。
どうやら、千種はあたしと千歳くんが何かあるんじゃないかと期待をしているらしい。
でも、多分それはないだろうから、そこだけは釘をさしておいた。