星夜光、きみのメランコリー
・・・
図書室に着いて、きょろきょろと視線を泳がせながら歩いていると、一番奥の端にある机に、肘をついて本を読んでいる千歳くんを見つけた。
自分から呼んだのに、そんな奥の分かりにくい場所にいるあたり、彼らしいなと思う。逆に分かりやすい。
「ち、千歳くん!」
集中している彼に悪いなと思いつつ、声をかける。
思わず勢いづいてしまった声に、ハッと口元を抑えると、千歳くんの切れ長の目がピクリと動いた。
「…ちょっと、声大きい」
「ひえ、ごめんなさい」
「まったく。まぁいいよ、座れば」
トントン、と、隣の椅子の背もたれを叩く。
…隣においでってことでいいのかな。今日は、向かい合わせじゃないんだ。
引かれた椅子に腰掛けると、千歳くんとの距離が一気に近くなった。
この間の土曜日に嗅いだ匂いが、鼻をかすめる。いい匂い…なんて言ったら、また千歳くんはあたしを変態呼ばわりするのだろうか。
「遅かったじゃん。またどっか寄り道してた?」
パタン、と、読んでいた本を閉じて、千歳くんは言う。思わずタイトルを見る。夏目漱石の「三四郎」だって。難しいの、読んでるなあ。
「うん、空の色がすごくすごくきれいでね。思わず見惚れてしまって」
「あぁ、さっきの夕焼けね。そんなことだろうと思ってた」
「ええっ、千歳くんはあの色たちを見ずにここに来たんですか!?」
「まぁね。だって天香との約束もあったし」
…ウッ。それは約束があったのに足を止めてしまったあたしへの嫌味ですね。涼しい目がこちらを向いている。
「…ごめんなさい」
「いいよ別に。写真撮ってないの?」
「撮ってない…、忘れてた」
「ふーん、そういうのは興味ないんだ」
…興味ない、とか、そういうわけではないんだけれども。色々あったからそんな余裕なかったというかなんというか。
でも、あの女の子たちから言われてしまった言葉は、千歳くんには言わないでおこう。
この間、元気付けてもらったばかりだもんね。