星夜光、きみのメランコリー
千歳くんは、「ちょっと待ってて」と言って席を立った。読んでいた本を返しに行くらしい。
なんとなく、離れて行く千歳くんを目で追っていると、半袖シャツの上に着ていたカーディガンのポケットが震えた。
スマホだ。
取り出して見ると、画面には大きく、“ 右京くん ” の文字。さっき教えてもらってばかりのメッセージのアカウント。
バスケットボールのアイコンの隣に、『天香ちゃんにもあげる』と文章が連なっていた。
画像が添付されている。小さくなっていたそれを指で押すと、画面いっぱいに、さっきの夕焼けが広がった。
「…わあ!」
さっき、右京くんが撮っていた空。少し碧みが濃くなったそれが、しっかりと残されている。
綺麗。こんなにも綺麗に、撮れていたなんて。
色たちがしっかりと生きているところ、こうやって繊細なところまで残しておけるなんて、最近のスマホはすごいなあと、お父さんみたいなことを思ってしまう。
「…天香? 何やってんの」
指で拡大をして、細かい色のひとつひとつを眺めていると、本を返して戻ってきた千歳くんが呆れた様子でこちらを見ていた。
手には一冊の本。また違うものを持ってきたようだ。
「あっ、千歳くん。見て見て、さっき千歳くんが見たいって言ってたさっきの夕焼け」
椅子に座った彼に近づいて、画面を見せる。
「え? なに、さっき撮らなかったって言ってなかったっけ」
近いよ、と、あたしのおでこを押さえつけながら、千歳くんは眉をひそめる。
「うん、あたしは撮らなかったんだけど。右京くんにさっき会ってね、その時に撮ってた写真を送ってくれたんだ」
渡り廊下で会ったこと、話すの忘れてた。右京くんと話してたから遅れてきてしまったのに。まあいいか。
でも、あたしのスマホを握ったまま、何も言わない千歳くん。不思議に思って視線を上に上げると、その目はじっとあたしをとらえていた。
…どきん、と、心臓が跳ねる。
わ、距離が、近い。