星夜光、きみのメランコリー
「いつの間に、右京の連絡先教えてもらってんの?」
静かな声が、こちらに向けられる。
薄く整ったくちびるは、あまり動くことなく、小さな音を生み出していく。
…千歳くん、怒った時とか、こんな声を出すんだよね。普段から、そんなにご機嫌なところ見たことあるわけじゃないけど。
「…あ、えっと、さっき夕焼け見てる時に、渡り廊下で会って。その時に、教えてよって言われたから」
「それで教えたの?」
「う、うん…?」
…右京くんの連絡先、教えてもらうなんて図々しかったのかなあ。でも、教えてって言ったのは彼の方だし。
べつに、大丈夫だよね。
怒られるかなって思って、身体を固めて心配していたけれど、しばらくすると千歳くんは、はぁと溜め息をついてあたしの頭に手のひらを乗っけてきた。
「…ま、いーよ。俺がどうこう言えることじゃないからね」
千歳くんの声が、ほんの少し明るくなる。
「…千歳くん、怒ってないの?」
「…別に。怒ることでもなくない?」
確かに。怒ることではない、のかな。お友達だったら、交換することなんてよくあることだし。
…でも。
「でも、なんか知らないけど、モヤッてしたから。ごめんって」
「モヤッと?」
「そう。だってお前、俺の連絡先まだ知らねーじゃん」
千歳くんは、肘に頰を預けたまま、あたしの方を向いてしばらく髪の毛に触れていた。
千歳くんの温かくて大きな手のひらが動いて、心地いい。
「…俺の前に俺の友達の連絡先かよって。ちょっと思っただけ」
「…」
影になっている千歳くんの顔の向こうで、さっき渡り廊下で見た光が、さらに濃くなって傾いていた。
オレンジと青が混ざり合う。その前で、千歳くんはじっとあたしの方を見ている。
「…あたし、千歳くんの連絡先知りたいよ」
「ふぅん。どうしようかな」
「えっ、千歳くん意地悪」
さっきはモヤッとするとか言っていたのに。てっきり、教えてもらえると思っていたのに。
「…なんか、意地悪したくなる。天香見てると」
「どういうこと、ですか」
「わかんねー」
綺麗な顔。夜の色が濃くなってきた空がよく似合う。この間は、太陽の光の色に包まれていたのに。
今の千歳くんの意地悪そうな顔が、夜の色に染まって、余計に色っぽく感じるよ。