星夜光、きみのメランコリー
すっと、頰に千歳くんの手のひらが入り込んできた。
親指で目の下をグッと下げられて、じっと見つめられる。
「…俺ね、色が分からないんだ」
そして、なんでもないように、生まれてくる彼の言葉。
まるで、あたしの目に、話しかけているよう。
「…色が…、分からない…?」
「そう、12歳から、しばらくね」
最初は、何を言われているのかてんで分からなかった。
“ 色が分からない ”
そのような世界で千歳くんが生きていること、あたしは想像もしていなかったから。
「…完全に白黒ってわけじゃないんだけどね。分かりづらいっていうのかな」
「…」
「天香の世界では想像できないようなところに、俺は住んでる」
…千歳くんの声は、落ち着いていた。静かで、まるで、背後に広がる夜の空のようで。
でも、あたしの目をしっかりと見つめながら、彼は訴えて。
いつの間にか、反対側の手で、あたしの右腕を掴んでいる。
「…天香のくるしみは、分かりそうで分かってなくて、でもやっぱり分かるところはあって。お前が泣いてんの見ると、どうにかしてあげたいって思うけど」
「……」
「でもやっぱ、それはお前が神さまからもらった大事な世界だから。ほかの誰に何を言われようと、お前の世界でどんなことが起こってようと、」
「……」
「俺は、大切にしたいって思うよ」
…千歳くんの世界と、あたしの世界。それは、どのくらい遠くにあるのだろうか。
世界地図や、地球儀なんかじゃ表すことのできない形のない世界は、どうすれば見ることができるのだろう。
頰に、熱いものが流れた。
なぜかは分からない。千歳くんの言葉に、胸を刺されたからだろうか。
「…でも、天香と俺の世界は、交わることは絶対になさそうだね」
それとも、やさしい顔でそう話す彼の言葉が、鋭い棘をもっていたからだろうか。
千歳くん。
千歳くんの世界の色は、きっと、あたしには分からない色なんだね。
それだけは、ちゃんと分かったよ。