星夜光、きみのメランコリー


右手の先に置かれてある、決まった色を他のコと混ぜ合わせては、新しい色を生み出した。

色のいのちは無限だ。人間と同じ。決まった数なんてない。

それを生み出すこと、いのちを吹き込むことが、あたしはどうしようもなく好きだった。


…小さい頃から、ずっと。



「おお、彩田」


ひたすらに左手を動かして“ 遊んで ” いると、黒縁メガネがニュッと乗り込んできた。

ハシバ先生だ。


「…お前、相変わらずおもしれー絵を描くな」


メガネをかけ直して、あたしのキャンバスをじっと見つめた。たくさんのいのちを生みたくて、ただ何色もの色を重ねてあるもの。

とくに、タイトルもテーマもない。


「そうですか?」

「おー。この、端に小さく垣間見得てる原色がいい。淡い色だけで塗りたくってない感じ」

「…」


…そんな風に褒められるの、なんだか複雑な感じ。この間久しぶりに見た、賞状に散りばめられた黒を思い出す。

苦手な色。あたしが、こうして絵を描いてもらったもの。苦い思い出。


でも、褒められるのはきらいじゃないのだから、矛盾している。



「…お前、なんか悩んでんのか?」


先生の言葉に、筆を動かせずにいると、そう聞かれた。

じっと絵を見つめる先生。特に何も考えないで、あたしの絵から滲み出るものを元に聞いたのだろう。


「…悩み?」

「うん? それがテーマなのかと思って」

「…」


…これが、悩み。先生の言う、感情。


正直、“ 悩み ” という感情を絵に描くとするならば、もっと暗い色で表現するものだと思っていた。

あたしが散りばめているのは、どちらかというと暖かい色。暖色だ。

例えるなら、太陽の光から生まれてくるような色と同じ。



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